肩凝りのメカニズム
ガンコな肩こりの解消には、肩甲骨周辺の筋肉のストレッチがおすすめです。猫背や冷えの改善にもつながるストレッチについて
ストレス、動かない生活、首の形状などが肩こりに影響
一口に肩こりといっても、首、肩、背中にかけての広い範囲が硬くなって重く感じたり、痛んだりと、人によって自覚症状はさまざまです。慢性化すると、頭痛、めまい、眼精疲労などを伴うこともあります。
肩こりによる痛みや不快感は、もともとの体型や前かがみの姿勢を続けることなどによって、筋肉が緊張して血行が悪くなることで生じます。特に冬は、寒さや厚着による服の重みなどの影響で、筋肉がさらにこわばって血行不良が進み、肩こりが悪化しやすくなります。このような筋肉の状態に、ストレスや、座りっぱなしで動かない生活習慣が加わると、肩こりの不快感がさらに増し、症状を強く感じるようになります。
また、首(頸椎)の形状も肩こりや首こりに影響します。本来、頸椎は緩やかな前弯のカーブを描いていますが、パソコンでの作業やスマートフォンの操作などで前傾姿勢をとり続けることで、このカーブがまっすぐになったり(ストレートネック)、後弯したりします。すると、5 kgもある頭の重さを支えるために首の筋肉に大きな負担がかかるようになります。首を30度前に傾けると、頭の重さの3倍以上の18 kg、60度傾けると27 kgもの負担が首の筋肉にかかります。
さらに、鎖骨も肩こりに関係していることが分かっています。首の下部分の中央から左右に伸びて胸を広げる「突っかい棒」の役割をしている鎖骨は、本来V字に上がっています。しかし、なで肩などが理由で鎖骨が水平に近い状態に下がると、鎖骨の外側とつながっている肩甲骨もあわせて下がり、首周辺の筋肉が引っ張られて緊張するため、肩こりの原因になるのです。
肩こり対策の鍵を握るのは肩甲骨
肩こり対策として、入浴やマッサージなどは血行が良くなるため有効ですが、いずれも根治にはつながりません。特にマッサージは深いところに届きにくいうえ、強く揉みすぎると筋肉が傷ついてしまいます。かえってこりを強くしてしまう場合があるため、注意が必要です。また、首のこりを感じて首を回す人も多いですが、肩こりに関係する筋肉は一部しか動かず、大きな効果は期待できません。
じつは、肩こりの原因となる筋肉は、首よりも肩甲骨につながって存在しています。本来、肩甲骨は肋骨の背中側の上にあり、島のように浮いた構造をしていて、肋骨の上をすべるように動くようにできています。しかし、長時間じっとして前傾姿勢を続けることが多くなった現代人の場合、肩甲骨が外側に広がったままで動かないため、肩甲骨周辺の筋肉の血行が悪くなって硬くなりやすいのです。そのため余計に肩甲骨の動きも悪くなり、ガチガチにこりかたまっていくという悪循環に陥ります。
特に、肩甲骨を上に引き上げる役割をする「肩甲挙筋」と、肩甲骨を寄せる「菱形筋」が、肩こりと深く関連します。これらの筋肉は深部にあるため、マッサージでほぐすことができません。肩甲骨を動かすストレッチによってこれらの筋肉をほぐし、肩甲骨の動きを良くすることが、肩こり解消につながります。
肩甲骨の状態をチェックしよう
自分の肩甲骨がどのくらい動くかチェックする方法を、遠藤先生に教えていただきました。早速試してみましょう。
■肩甲骨の動きは角度でチェック!
- 1.壁に背をつけて立ち、腕を伸ばしたまま肩の位置まで上げる。
手のひらは下向きに。
- 2.そのまま壁伝いに腕を上げていく。
痛みを感じず無理なく上げられるところまで腕を上げて、角度をチェックする。
肩の水平ラインから腕が上がったところまでの角度で、肩甲骨の状態を判定します。
- 0~45度=ガチガチ
肩甲骨周辺の筋肉が硬く、肩甲骨の動きが悪くなっています。 - 45〜60度=少し硬い
肩甲骨周辺の筋肉が少し硬くなっていて、肩甲骨の動きもやや悪くなっています。 - 60〜90度=問題なし
肩甲骨が柔軟に動いています。
肩と水平の高さまでは、肩関節の動きだけで腕を上げられますが、それ以上に腕を上げるためには、肩甲骨のスムーズな動きが必要になります。
肩こりが楽になる! 肩甲骨ストレッチ
遠藤先生に教えていただいた肩甲骨ストレッチをご紹介します。肩甲骨を肋骨からはがすようなイメージで動かし、肩甲骨周辺の筋肉をほぐしましょう。肩甲挙筋と菱形筋を意識して動かすことで、背中から肩にかけて楽になります。猫背や冷えの改善などの効果も期待できます。
■「肩甲骨をはがす」ストレッチ
- 1.両ひじを曲げて肩より上に上げる(腕が上がらない人はできるところまででOK)。手は軽く握って鎖骨のあたりに置く。
- 2.両ひじを、ゆっくりと後ろに引く。5秒かけて息を吐きながら、ひじの位置はできるだけ下げないように。肋骨から肩甲骨を「はがす」意識でぎゅっと強めに寄せる。
- 3.肩甲骨を寄せたままひじを下げ、脱力する。これを5回繰り返す。
朝起きた時に5回、寝る前に5回、習慣にするのがおすすめです。デスクワークの合間などにも随時行うとよいでしょう。一つひとつの動作をじっくりと行うことが大切です。
肩甲骨のストレッチを習慣化して、自由に動く肩甲骨を取り戻しましょう
肩こりの典型的な原因
ふだんは意識していないかもしれませんが、頭の重さは5~6キロもあります。お店などで5キロ入りの米袋を持ってみると、かなりの重さだと実感できるでしょう。
そんな重い頭を支えているが、首と肩です。日本人は欧米の人と比べると、頭が大きいわりに首から肩の骨格や筋肉がきゃしゃにできているため、肩こりを起こしやすいといわれます。厚生労働省の『国民生活基礎調査(平成28年)』によると、私たちが日常生活で自覚している症状のなかで、肩こりは女性では1位、男性では2位になっているほどです(※1)。
このデータからもわかるように、肩こりは日本人の宿命ともいえる症状ですが、とくに中年以降は骨や筋肉が弱くなるので注意しましょう。たかが肩こりと思っていると、こりが痛みに変わり、何をするにもつらいといった状態になりかねません。
一言で肩こりといっても、その原因は数十種類もあり、人によってさまざまです。そのなかでとくに多いのが「同じ姿勢」「眼精疲労」「運動不足」「ストレス」で、肩こりの4大原因とされています(※2)。
また最近では、肩こりと血圧の関連も注目されています。従来は低血圧の方に肩こりが多いとされていたのですが、反対に高血圧の方も少なくないのです。肩こりの原因によって予防法も異なりますので、自分の肩こりの原因や特徴を知ったうえで、より効果的な対策をとるようにしましょう。
(※1)『国民生活基礎調査(平成28年)』による自覚症状の上位ランキングは、男性が「①腰痛、②肩こり、③せきやたん」、女性は「①肩こり、②腰痛、③手足の関節の痛み」となっています。また欧米の人にも肩こりがないわけではありませんが、きわめて少数です。
(※2)そのほか、頚椎症や頚椎の椎間板ヘルニアなどの病気による肩こりもあります。また狭心症や心筋梗塞が、肩こりや肩の痛みを引き起こすこともあります。
パソコンやスマホ作業に要注意
肩こりの4大原因のうち「同じ姿勢」と「眼精疲労」は、主としてデスクワークや読書、細かい手仕事などによって起こります。とくに最近は、パソコンやスマホの長時間使用による肩こりが増えています。
<原因と予防策>
パソコンやスマホの操作、読書、手仕事などをするとき、多くの方は首を少し前に突き出す姿勢になっています。また、両肩を少し前にすぼめる姿勢にもなりがちです。こうした姿勢を続けていると、首から肩の筋肉に緊張性の疲労が生じ、血流が悪くなり、肩こりを起こしやすくなります。
また細かい文字などを見続けると、目やその周囲の筋肉が緊張し、それと同時に首や肩も緊張します。とくにパソコンやスマホの場合、光源を見つめているのと同じなので目が常に緊張を強いられ、まばたきの回数が減ります(通常は毎分15~20回程度。パソコン・スマホ作業中は毎分1~2回に激減)。そのためドライアイから眼精疲労を起こし、それも肩こりの原因ともなります(※3)。
予防策としては、まず「同じ姿勢」を続けないようにして、こまめに首や肩の緊張状態をほぐすこと。作業の合間に、首をゆっくり後ろに反らせてみてください。このとき首筋や肩が硬い、あるいは少し痛いと感じたら、すでに肩こりが始まっています。首や肩をゆっくり回して筋肉の緊張をほぐしましょう(※4)。また、1時間に一度は立ち上がり、手を上に伸ばしてブルブルと振る、軽い屈伸をするなどの方法で全身の血流を促すと、筋肉の緊張緩和に役立ちます。
一方、「眼精疲労」の予防には、ときどき目を休ませることが大切です。目薬をさすだけでなく、1~2分間は目を閉じて休ませてください。そのとき、指先でこめかみのあたりを、優しくなでるように円を描きながらマッサージするとより効果的です。仕事中などで目を閉じることができない場合は、窓の外など遠くを眺めるだけでも目の緊張がほぐれます。
また中高年になるにつれ動体視力が低下するため、パソコンのスクロール画面を目で追うと非常に疲れることがあります。スクロールするときは画面を直視せずに、視線を少しそらすようにしましょう。
(※3)まばたきは涙腺を刺激して、目の表面を涙で潤し、保護する働きをしています。まばたきが少ないと目が乾燥し、疲れやすく、また傷つきやすくなります。
(※4)肩がこっているときに首や肩を急激に動かすと、筋違いなどを起こす可能性があります。力を抜いて、できるだけゆっくり動かしましょう。
日常生活に運動を取り入れる
肩こりの4大原因のうち「運動不足」と「ストレス」は、日常の習慣が背景になっています。それだけに生活を見直し、肩こりを起こしにくい習慣をつけることが大切です。
<原因と予防策>
肩こりを起こしているときの首や肩は血流が悪くなっていて、新鮮な酸素や栄養分が伝わりにくく、疲れやすい状態になっています。それを改善するのに有効な方法が、適度な運動です。
運動はそれ自体が、血流を改善する効果があります。それと同時に、筋肉量の低下を防ぎ、柔軟性を高めて、筋肉をしなやかに保ちます。筋肉は血液を送るポンプのような役割をしているため、運動を継続することで全身の血流を改善し、日ごろから肩こりを起こしにくい身体をつくることが大切です。
肩こりの予防を目的とする場合、筋肉に強い負荷をかけるよりも、筋肉を動かすことに意味があります。ハードなトレーニングよりも、散歩やウォーキングなどの軽めの運動がお勧めです。それが難しければ、室内での浅い屈伸運動でも全身の血流がよくなるので、定期的におこなうようにしましょう。歩くときは手を少し大きく振る、屈伸運動では膝を伸ばすときに両手を上や前、横に伸ばす方法で、肩の筋肉もほぐすことができます。
一方、「ストレス」による肩こりの解消にも、運動は効果的です。身体を動かすと血流が改善されるだけでなく、気分転換にもなるからです。また運動を始めると、やり方をおぼえたり、グッズ(運動着、靴など)を選んだり、目標をもつ(タイムを縮める、体重を減らすなど)といった楽しみが増え、それもストレス解消につながります。
ストレス性の肩こりは女性に多く、とくに気分が落ち込みやすい女性は注意が必要です。毎日の生活のなかに適度な運動習慣を取り入れ、肩こりを起こしにくい身体づくりを心がけましょう(※5)。
(※5)高血圧の治療を受けている方や高齢の方は、運動を始める前にかならず医師に相談してください。
肩こりと高血圧の関係とは
一般に、低血圧の方に多くみられる症状に、手足の冷え、立ちくらみ、肩こり、疲労感などが知られています。そこに共通しているのは、血流があまりよくないために起こるという点です。
では高血圧の場合は、どうなのでしょうか。高血圧の患者さんに多くみられる症状には、めまい、肩こり、頭痛、動悸などがあります。そのなかには、やはり血流の悪化と関係した症状も少なくありません。
高血圧にはいくつかのタイプがありますが、例えば加齢などが原因で動脈硬化を起こすと、血管が狭くなって血流障害が生じ、血圧も高くなります(※6)。また、ストレスを受けたときにも、交感神経の働きなどで血管が狭まり、血圧が上昇するので、ストレスが慢性化すると、高血圧を引き起こしやすいことが知られています。
こうした高血圧と関係の深い要因(動脈硬化、ストレスなど)が、肩こりとどう関係しているのかは、まだ解明されていません。しかし、どちらも血流の悪化をともなう点は共通しており、そのために併発しやすいと考えられています。
肩こりがあるからといって高血圧とはいえませんが、今までよりも肩こりがひどくなった、急に肩こりに悩まされるようになった、という症状を感じたら、血圧測定をしてみましょう。それが高血圧の早期発見や、高血圧の治療による肩こりの改善につながることもあります。
(※6)動脈硬化にもいくつかのタイプがありますが、もっとも多くみられるアテローム性動脈硬化症は血管の内側に粥状の隆起ができることで、血流障害が生じやすく、また血栓もできやすいので注意が必要です。