トレーニングの頻度
トレーニングはどのくらいの頻度がベストなのか?
東京五輪の男子1500m走で金メダルを獲得したヤコブ・インゲブリクトセン選手のように「トレーニングは週に10~14回、スポーツジムと競技場で数え切れないほどの時間を過ごした」という人もいますが、大半の人にとっては体型を維持できる程度の運動で十分です。では「体型を維持するためにはどれくらいの頻度で運動すれば良いのか」という疑問について、イギリス・ティーズサイド大学のスポーツ科学者であるマシュー・ライト氏とジョナサン・テイラー氏が解説しています。
人間の肉体は負荷に応じて生じる「Adaptations(適応)」という機能で能力を向上させるため、運動は体のさまざまなシステムに負荷をかけることを目的としています。しかし、どのような能力が向上するのかはトレーニングの種類に左右され、バーベルを持ち上げる重量挙げでは筋力が向上しますが、主に骨格筋に負荷が掛かるため、心肺機能についてはさほど改善効果を得られません。
また「最高の結果を得たいならば休まず毎日トレーニングするべき」と考えてしまうかもしれませんが、ライト氏らによると肉体強化のためには「回復」と「反復」の2要素が重要。「適応」機能を発揮するためには肉体が回復するための時間が必要で、負荷も1回限りではなく何度も反復してかけなければ効果が見込めません。つまり、体を鍛えたい場合には、「トレーニングを続けること」と「運動と回復のバランスを整えること」が鍵になります。
しかし、この問題を考える際に重要になるのが「肉体はシステムごとに回復速度が異なる」という点。例えば、短距離走や高強度インターバルトレーニング(HIIT)、高強度の筋トレなどの主に神経系に負荷をかける運動は、ジョギングや低強度の筋トレなどの主に心肺機能に負荷をかける運動よりも長い回復期間をおくべきとされています。このため、ひとくちに「運動と回復のバランスを整える」といっても、そのバランスはトレーニングの内容次第で異なります。
というわけで、ライト氏の解説する鍛えたい能力に応じた適切なトレーニング頻度が以下。
◆持久力
持久力を鍛えたい場合は、低強度のトレーニングをサボらず続けることが重要。ライト氏らによると、低強度のトレーニングを続けると人間の肉体は酸素を効率的に利用できるようになるそうで、同じ強度のトレーニングでも楽に行えるようになるそうです。実際に成功を収めている長距離ランナーを分析すると、トレーニングの約80%は低強度のトレーニングを行っており、高強度のトレーニングは週に2~3度、最低でも48時間以上の間隔を開けるとのこと。
◆スポーツのスキル
水泳や球技、格闘技などのスポーツでは、肉体的な能力だけでなく技術的なスキルも要求されます。技術的なスキルに関する研究は途上段階とのことですが、「目標を持って一貫性のある練習を続ける」ことがパフォーマンスの向上に寄与すると考えられています。ライト氏らは水泳を例に挙げて、「水中での効率的な移動法を学ぶために低強度の運動を行う指導法に重きが置かれているものの、同じトレーニングを繰り返すと肉体の特定箇所に負荷がかかってケガをするため、負荷に変化を持たせる目的で高強度のトレーニングを行う日と低強度のトレーニングを行う日、そして休養日を組み合わせる手法がベストだ」と述べています。
◆筋力
トレーニング量が多ければ多いほど筋肉の量と質が向上すると考えられており、トレーニング頻度が高ければ高いほど筋力が付くという研究結果も存在します。しかし、ライト氏らによると、筋肉量を増やすためには休息と適切な栄養摂取を含めた回復をおろそかにするべきでは絶対にないとのこと。日本の厚生労働省が筋トレの推奨頻度について「週2~3回」と(PDFファイル)推奨しているように、ライト氏らも一般的に週に2回以上の筋トレを推奨。筋肉量を増やしたい場合には、十分な負荷をかけつつ日によって鍛える箇所に変化を持たせることで、適切な回復期間を設けやすくなると解説しました。
前述のように週に2回以上の筋トレが推奨されていますが、ライト氏らは「筋トレは週に1回でも効果がある」「スクワットやランジなどの全身運動を正しいフォームで行うことが筋力アップに効果的」と語りました。なお、「高強度の筋トレをこれ以上行えなくなるところまで続ける」という方法については、少なくとも筋肥大に関しては行えなくなる少し手前で止めたほうがベターという研究結果があると述べています。
◆健康とフィットネス
ライト氏らによると、体型維持を目的としている人にとって重要なのは運動量ではなく「運動の質」とのこと。1分間の激しい運動と75秒の休憩を4~7回繰り返すという高強度インターバルトレーニングを週3回行うと体型維持だけでなく精神的な健康状態も改善されるという研究結果があるそうで、ライト氏らは質の高い運動なら1日30分以下でも効果が出ると述べています。
以上のように、自分の能力、目標、運動強度に応じてトレーニングの推奨頻度は変わるため、ライト氏らは「1週間のうちに行うトレーニングの種類に幅を持たせ、高強度の運動や筋トレを行う場合には十分な回復期間を設けることをオススメします。ただし、最も効果的なトレーニングは、長期にわたって継続することです」とコメントしています