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ぎっくり腰

ぎっくり腰は何げない動作でも起こる

ぎっくり腰の痛みは、経験者でないとわからないほどつらいものです。ほとんどの人は激痛に顔をしかめ、その場で横になったまま動けないほど。何の前ぶれもなく突然起こるので、ヨーロッパではぎっくり腰を「魔女の一撃」といいますが、まさにそんな感じです(※1)。
一般にぎっくり腰は、重いものを持ち上げたときに起こりやすいといわれます。ところが実際には、咳やくしゃみをしたとき、ベッドや布団からからだを起こそうとしたとき、顔を洗うとき、いすに腰かけて横や後ろのものを取ろうとしたとき、ゴルフや野球の素振りを軽くしたときなど、さまざまなケースがあります。日常の何げない動作をしたときに、だれにでも起こりうるものなのです。
ぎっくり腰は従来、急性の一時的な腰痛と思われていました。ところが適切な手当てをせず長引かせてしまうと、慢性の腰痛に進むケースが少なくありません。とくに中高年の場合には、しっかりケアをしないと再発しやすい傾向もみられます。さらにぎっくり腰をきっかけに、ほかの病気が発見されることもあるのです。
それだけに、ぎっくり腰を起こしたときの対策や再発を含めた予防について、きちんと知っておくことが大切です。 

(※1)ぎっくり腰というのは通称で、病院では突然痛みが起こる「急性腰痛症」のひとつと診断されます。

vol.33 知っておきたい「ぎっくり腰」の対策と予防

ぎっくり腰はなぜ痛い

ぎっくり腰は、なぜ痛いのでしょうか。その理由のひとつは、腰を支える靭帯(じんたい)や筋肉に急に負担がかかり、断裂を起こし、それが神経を刺激するためです。ちょうど強い捻挫(ねんざ)を起こしたのと同じ状態なので、腰の捻挫ともいわれます。
しかし、痛みの原因はそれだけでなく、腰の中央に連なる椎骨の関節とその周りの膜(関節包)、さらに椎間板(軟骨)などが傷つき、神経を圧迫することからも起こります。
人によって、また原因によっても異なりますが、こうした痛みが重なることで、強い痛みになるのです。
中高年の場合には、加齢や運動不足のために腰を支える筋肉が弱くなり、腹筋と背筋のバランスが乱れていることがあります。また、椎骨の関節や椎間板が変形し、いわゆる椎間板ヘルニアなどを起こしている場合もあります(※2)。こうしたケースでは、ぎっくり腰を起こすと症状もひどくなりがちなので、とくに注意する必要があります。 

(※2)椎間板ヘルニアは、椎骨と椎骨の間にある軟骨の一部が後方に飛び出し、神経を圧迫することで生じる腰痛です。そのほか老化に伴う腰痛では、椎骨の変形により脊柱管という神経が狭くなる脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、椎骨の一部に変形や疲労骨折が起こる変性すべり症や分離症などがあります。

もし、ぎっくり腰になったら

ぎっくり腰を起こすと、当初は動くことも立ち上がることもできないのが普通です。その場合には横向きに寝て、腰を丸めた姿勢をとると、少し楽になります。 病院でブロック注射をしてもらい、痛みをやわらげる方法もありますが、無理にからだを動かすとかえって症状を悪化させかねません。激しい痛みがある2~3日間は自宅で安静にし、その後病院に行くようにしましょう。
外出先などでぎっくり腰になった場合は、タクシーを呼んでもらうか、知人の車で送ってもらうようにしますが、その際もシートに横向きに寝るようにします。自分で車を運転するのは危険なので、やめましょう。
自宅で安静にしている間は、マッサージなどをしてはいけません(※3)。湿布薬などで、痛みをやわらげる程度にしましょう。冷湿布か温湿布か迷うところですが、靭帯や筋肉の断裂により出血や炎症を起こしているケースでは、一般的には消炎作用のある冷湿布のほうが適しています。お風呂などで温めるのは逆効果になりがちなので、最初のうちはあまり温めないようにします。
痛みが少し落ち着いたら、冷湿布でも温湿布でも、本人が心地よいと感じるほうにします。 

(※3)病院によっては、患部を氷で冷やしながらマッサージを行う治療法を導入しているところもあります。ただし、これは専門家が行う治療で、冷やし方などにコツがあります。患者さん本人や家族などが自己流で患部をマッサージするのは悪化の一因となります。

痛みが落ち着いたら早めに動く

2~3日して痛みが落ち着いてきたら、少しずつ動くようにしましょう。従来は、痛みが治まるまでは寝ているほうがいいとされていましたが、最近では早めに動き始めたほうが回復も早いことがわかってきました。
ただし、無理は禁物です。痛みの程度をみながら、自宅の中などを少しずつ歩くようにします。また病院を受診し、検査を受けることも大切です。病院では鎮痛薬などのほかに、布製のコルセットをもらっておくと、歩くのが楽になります(※4)。
強い痛みが治まったら、お風呂で温め、靭帯や筋肉の緊張をやわらげます。温めると血行もよくなり、回復も早まります。
ただし腰の痛みに加えて、発熱や冷や汗などの症状が続く場合には、ほかの病気の可能性もあるので、早めに検査を受ける必要があります。ぎっくり腰や腰痛の原因として、腎結石やすい炎、たんのう炎などのほか、脊髄腫瘍など重大な病気が隠れている場合もあるからです。 

(※4)コルセットは薬局や介護用品の売場などにもありますが、医師に相談した上で使うようにしましょう。

再発を防ぐための運動を

ぎっくり腰の痛みは通常、1週間程度でかなり治まり、日常生活もこなせるようになります。ところがそこで安心していると、再発したり、慢性の腰痛症へと進んでしまうことがあります。その最大の原因は運動不足です。
とくに中高年の場合には、加齢に伴い骨量が減り、腰椎の変形などが進み、再発や慢性化を起こしやすい傾向がみられます。予防のためには、腰を支えるための筋力アップ運動や、筋肉や靭帯を柔軟にするストレッチ運動が適しています。
腰に負担をかけずに筋力をアップするには、水中ウォーキングなどのアクアサイズが適しています。自分で簡単にできる運動では、ウォーキングやスローピング運動で、足腰を鍛える方法もあります。ウォーキングの場合は、いきなり大股で歩くと腰に負担がかかるので、当初は小股で速歩きをするようにします。 腹筋と背筋の強化も、ぎっくり腰の予防につながります。どちらも強い運動は必要ありません。 

<腹筋と背筋運動の一例>
1. あお向けに寝て、手をお腹のあたりに置き、上体だけを少し上げる(5秒程度)。このとき、息は止めずに少しずつ吐く。これを数回繰り返す。
2. うつ伏せに寝て、手はからだの横に添え、上体を少しそらす(5秒程度)。息は止めずに少しずつ吐く。これを数回繰り返す。

腹筋と背筋をさらに強くするには、1.と2.と同じ姿勢で、足先を上げる運動もあります。ただし、腰への負担が大きくなるので、まず1.と2.の運動に十分に慣れるようにしてください。
腰に痛みが残っている場合や自分では運動が続かない場合は、医師に相談してリハビリの運動を行っている施設を紹介してもらい、専門家の指導を受けるようにしましょう。
またストレッチ運動は、ラジオ体操程度で十分ですが、曲に合わせて急いでやる必要はありません。筋肉をリラックスさせ、靭帯をゆっくり伸ばすつもりで、自分のペースでやるようにします。

日常の動作にも注意を

ぎっくり腰を起こさないためには、日常の動作にも注意する必要があります。

1. 朝起きるときには、すぐにからだを起こさず、布団の中で横になり腰を丸めた姿勢をとります(胎児のような姿勢)。こうすることで、椎骨の間が開き、周辺の筋肉なども伸ばすことができます。

2. 顔を洗うときは、腰だけを倒すのでなく、ひざも少し曲げます。これだけで腰にかかる負担がかなり軽減されます。

3. 床から物を拾ったり、物を持ち上げるときにも、必ずひざを曲げるくせをつけるようにします。

4. 靴はウォーキングシューズが適していますが、普通の靴の場合には厚めの中敷を敷き、歩くときのショックをやわらげるようにします。

5. いすに座る場合は、背当てに腰が付くまで深く腰かけるようにします。1時間に一度は立ち上がり、軽い屈伸運動(ひざを少し曲げる程度)で腰部の血流をよくすることを心がけましょう。

6. 急に伸びをしたり、腰をひねるような動作は控えます。伸びをすると腰がリラックスするように思えますが、急に行うと反対にぎっくり腰を起こすことがあります。