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腰痛のメカニズム

どうして症状が起こるの?

腰痛は病名ではなく体に表れる症状の名前です。腰そのものに問題がある場合だけでなく、職業、生活習慣、ストレスなどの要因が複雑に絡んでいるため、自分の生活をかえりみることが腰痛の原因を知るための第一歩となります。病気やけがによる自覚症状の調査では男性1位、女性の2位が腰痛となっており、誰もが経験しうる身近な症状です。

  • 厚生労働省 平成28年国民生活基礎調査の概況

特異的腰痛~神経を圧迫する脊椎の病気などが主な原因に

腰痛が起こる原因はさまざまで、複数の要因が絡んでいる場合もあります。多くは原因不明ですが、15%程度は原因を特定できる「特異的腰痛」です。
原因となる代表的な病気としては椎間板ヘルニア、高齢者に多い腰部脊柱管狭窄症、骨粗しょう症が挙げられます。これらはいずれも背骨の神経(脊髄神経根)が圧迫されて痛みが起こり、圧迫がひどいときには、脚の筋力低下やしびれを伴います。

腰椎椎間板ヘルニア

背骨と背骨の間にはクッションの役割をする「椎間板」という構造があります。椎間板は、外側が硬い「線維輪」、内部は軟らかいゼリー状の「髄核」でできています。加齢などにより外側の線維輪が変性・断裂して髄核の一部が飛び出してしまい、脊髄神経根を圧迫することで痛みが起こります。腰やお尻から下肢にしびれや痛みが広がり、力が入りにくくなります(座骨神経痛)。痛みは、長い距離を歩いたり、重いものを持つと強くなることがあります。椎間板ヘルニアは、悪い姿勢での動作や作業、喫煙などにより起こりやすくなることが知られています。

背骨と椎間板のしくみ

腰部脊柱管狭窄症

椎骨や椎間板が加齢によって変性したり、異常な骨の突起(骨棘)が形成されたりして、神経が通っている脊柱管が狭くなり、脊髄神経根を圧迫する病気です。少し歩くと痛み、前かがみになって休むとまた歩ける(間欠跛行)症状が特徴です。お尻や足にしびれや痛みを感じることもあります。

骨粗しょう症

主に加齢により骨密度が減って骨折しやすくなる病気です。椎骨は特に影響を受けやすく、圧迫骨折が起こると脊髄神経根が圧迫されて、背中に慢性の痛みが生じます。

激しい運動後の腰痛(筋筋膜性腰痛)

急激に重いものを持ったり、無理な姿勢によって繰り返し筋肉に負荷をかけたりすると、筋膜性疼痛症候群(筋筋膜性腰痛)という病気になることがあります。筋膜とは、筋肉などさまざまな臓器を包んでいる膜のことですが、運動によってこれが傷ついてしまうことがあります。通常は数日で回復しますが、負荷がかかる状況が続いたり寒さで血行が悪くなったりすると回復が追いつかず、強い痛みやしびれを生じるまで悪化してしまう可能性があるのです。肩や脚など全身で起こる可能性がありますが、腰で発症し腰痛の原因となりうる病気です。

早期発見が必要な重い病気が隠れていることも

腰痛は、ここまでに紹介した病気のほかにも、神経、内臓、血管、心因性の病気などが原因で起こることがあります。特に内臓の病気や脊椎の腫瘍・感染・炎症・外傷などが原因になっている場合は、早めに見つけて治療する必要があります。

腰の周辺が痛む症状があるその他の病気
腰に由来
  • 腫瘍(脊椎腫瘍、脊髄腫瘍、馬尾腫瘍など)
  • 脊椎感染症(化膿性脊椎炎、脊椎カリエスなど)
  • 外傷(腰椎骨折、脱臼など)
腰以外に由来
  • 変形性股関節症など整形外科の病気
  • 尿路結石など泌尿器の病気
  • 子宮内膜症など婦人科の病気
  • 胆嚢、十二指腸、膵臓など消化器の病気
  • 解離性大動脈瘤など血管の病気
  • 統合失調など心因性の病気

など

非特異的腰痛~日ごろの生活習慣などが要因に

腰痛の約85%は原因不明

腰痛の約85%は、神経症状(しびれやまひなど)や重い基礎疾患などがなく、エックス線やMRIなどの画像検査をしても、どこが痛みの原因なのか特定しきれない「非特異的腰痛」です。いわゆる腰痛症と呼ばれるものはこれにあたります。
長時間中腰や猫背などの姿勢を続け、腰や背中の筋肉が緊張し続けたときや、運動不足で腰を支える筋力が弱っているときなどに起こります。寒さで筋肉が硬直する冬も神経が刺激されて痛みが起こりやすくなります。通常は、セルフケアをしていれば短期間で軽くなりますが、休養が十分とれなかったり、ストレスなどの心理的要因があると長期化することもあります。
急性の腰痛であるいわゆるぎっくり腰も非特異的腰痛に含まれます。急に無理な動作をしたときなどに起こる腰の組織のけがで、ねんざや、椎間板、腱、靭帯などの損傷が多いと考えられていますが、厳密にどの部分が傷んでいるのかを断定するのは難しいためです。

筋疲労を招く労働環境や生活習慣

職場環境によって腰痛を発症する人は非常に多く、労働災害全体の6割以上を占めています。体に負荷のかかる重労働、特に重たいものを持ち上げる作業や体幹を曲げたりひねったりする作業には気をつける必要があり、介護や看護の職場で多いとされています。逆に同じ姿勢をとり続けるような職場でも多く、デスクワークをしている人や長距離輸送のドライバーにも腰痛は多く発生します。これは股関節やその周辺の筋肉の柔軟性が失われてしまうことにも一因があると考えられています。
職場でのメンタルヘルスとの関連も指摘されていて、仕事に対する満足度や人間関係なども腰痛の発症や長期化と関連があるため、ストレスを溜めない環境作りも大切です。
また、生活習慣の中でも特に「運動不足」と「喫煙」は腰痛と関連していることがわかっています。

女性特有の腰痛

妊娠や生理など女性特有の原因で起こる腰痛もあります。
生理痛が強いと下腹部痛だけでなく腰痛を伴うことがあります。
妊娠中は大きくなったおなかを支えるために体の重心が変わり、上体を反らせる姿勢になることが多いため、腰痛が起こりやすくなります。子宮が大きくなり、骨盤の周りの筋肉(体幹支持筋群)が引っ張られることも、腰痛の原因になることがあります。産後も授乳や夜泣きの対応などの育児、家事に追われると、身体的・精神的な負担から腰痛が慢性化することもあります。
更年期になると体内のホルモンバランスが変わり腰痛が起こりやすくなることがあります。

(コラム)腰への負担を大きくした人類の直立二足歩行

四足で歩く動物とは異なり、直立二足歩行をするように進化したヒトでは、背骨に垂直方向の力が強くかかります。中でも腰には大きな力がかかるため、腰痛は人間特有の症状といえます。
垂直方向の力を分散するために、ヒトの背骨はゆるやかなS字カーブを描くように並んでいて、さらに腹圧(腹腔内の圧力)が腰椎(背骨を構成する腰の部分)を支えています。また、背骨と背骨の間のクッションとなる椎間板や腰を支える筋肉が、姿勢をサポートしています。このような姿勢を保つメカニズムが疲労したりダメージを受けたりすると、腰痛を発症するのです。

背骨と椎間板のしくみ